You Tubeでやった企画【夏の怪談をみんなで作ろう!・第三夜】で出たワードを使い無理くり作った創作怪談です。
語りは【夏の怪談をみんなで作ろう!・第四夜】にて披露されていますので、よければそちらご視聴ください。
これはAさんという方から聞いたお話
Aさんは昔、いわゆるチンピラのようなことをやっていた時期があり、そのときも地上げ屋のようなことを行うためにある地方に赴いていたそうだ。
行き先は、かつては多くの人間が別荘を買って夏や冬の長期休暇には訪れて余暇を楽しんでいたいわゆる別荘地という場所だった。
なんでも、もともとこの辺の土地は山側にある一軒の寺が殆ど持っており、それを戦後に切り売りすることで成立した別荘地ということだった。
ただ、単に広葉樹林が広がる場所というだけで、海でレジャーを楽しめるわけでも温泉が出るわけでもない「閑静な」この別荘地は、最盛期でもそれほど人でにぎわうようなことはなく、昭和の中頃に別荘からの客を見込んで寺からの出資で建てられた水族館も当初は良かったものの徐々に集客に苦しみようになり、水族館内で飼育しているクラゲを煮た物を名物として売り出したり、パピコ割り放題だとか、綿あめ刺し放題とか、よくわからない集客施策をしていたが、あえなく破産していまは廃墟となっていた。
そこの別荘地をまとめて買い叩いて、高齢者向けの施設を建設しようという計画が持ち上がったのはつい最近で、Aさんもそこの地権者やまだほそぼそと利用している別荘の利用者などにちょっとした「挨拶」をして周る予定だったそうだ。
季節は夏の真っ盛りだったそうだ。
本来ならうだるような暑さを避けられる避暑地なのだが、その時は気の早い台風が直撃したせいでひどい悪天候になり、別荘地に行くための電車も運休、一本しかない道もがけ崩れで通行止めになり、いわば陸の孤島のようになってしまっていたそうだ。
「〇〇はこちら→」と書かれている案内の看板も半ばとれており、別荘地にある朝顔の鉢植えなどもひっくり返っていているようなそんな嵐の中、Aさんは目的地の場所を見失い迷子のようになってしまっていた。
激しい風雨が吹きすさぶ中、どこかの別荘で飼われているのか、犬がワンワンと吠えている声が聞こえる。
嵐の中、どこからかオギャー、という赤ん坊のなく声も……。
「まいったな、どうすっかな。」
シャッターがしまっている古びた商店の軒先で雨宿りをしているAさんだが、時計に目をやってからふと目線を上げた時、男性が立っているのが見えた。
その男性が何気なく首をクッと上に上げたので、つられてその方向を見ると、そこに寺があることがわかった。
「あれ、確かもともとここらの土地を持ってたって寺か……。」
-このまま手ぶらで帰っても上役に怒鳴られるだけだし、寺ならちょっと話も聞けるかもしれない。
そんなことを考えながら、Aさんの足はその寺の方に向かっていた。
「え?なにこれ?」
寺についたAさんは驚いた。
寺は本堂が半壊してブルーシートがかぶせてあり、足元も草が伸びるに任せてある。
廃寺か?とも考えたが、本堂の脇から伸びる道の先には住職の住処なのか家があり、曇天の薄暗い風景の中そこの窓には明かりが灯っているのが見えた。
「すんません、ちょっといいですかぁ?」
Aさんは家のインターホンを押して声をかけた。
しばらくすると、奥の方で人の動く気配があり、一人の女声が姿を見せた。
現れたのは、ボロボロな寺には似つかわしくないきれいなお姉さんという感じの女性だった。
きれいなお姉さんの思わぬ登場に、Aさんはちょっとデレッとしてしまい、地上げに来たとは言えず、この辺の話を聞けたらと思いこの辺に来たのだが、この嵐で困っている、などと本当とも嘘とも言えないことをいった。
するとお姉さんは微笑んで、Aさんを客間のような部屋に通してくれた。
住職を呼びにいったのか、客間をお姉さんが出ていき、Aさんは1人取り残されてしまった。
手持ち無沙汰になったAさんは、(行儀が良くないが)客間にあるものを物色し始めた。
なんだかよくわからないが高そうな壺や、これもよくわからないが木彫りの像、記念写真なのかいろいろな人物が写った写真も何点か飾られている。
そんななか、一枚の写真に目が止まり、Aさんは思わずそれを手にとった。
それは、洞穴のような場所の奥に祭壇が組んであり、そこにご本尊のように雪だるまが安置されて大勢の人がその前で祈っている姿だった。
「そりゃ防空壕の写真だ。」
突然話しかけられ、Aさんは飛び上がりそうになった。
振り返ると、真っ白になった髪を長く伸ばし、色の入った大きなメガネをかけた、内田裕也みたいな見た目の老人が立っていた。
「俺はこの寺の住職だよ。」
老人はそういいながら、ドカっとソファに腰を下ろし、Aさんにも座るように促した。
「この土地のことを聞きたいのか?」
ぶっきらぼうにそういった住職は、そのまま聞きもしないことを話しだした。
「その写真は戦後の写真だな。ここの本堂がぶっ潰れた時に防空壕を本堂代わりに使ってまあいろいろやってた時の写真だな。ご本尊の代わりに雪だるまを拝んでるんだ。雪だるま拝んで何になるってんだよって話だけどな。」
ズケズケ話す住職に圧倒されていたAさんだが、ここに来た目的を少しでも果たさないと、と思いたちこの辺の土地について聞いてみた。
「この辺はずーっとあんまり良くない土地だよ。だからうちの寺がここに置かれたんだな。けどよ、先代……その写真に写ってるうちの親父だけどよ、欲ボケして土地とかまあ色々売っちまったんだよ。そのおかげで本堂も建て替えられたんだけどよ。まあ、その結果が今だよ」
「今って……?」
「あんたも見てきたろ、もうここらにある別荘に住んでるやつも、来るやつもほとんどいねえんだよ。昔は水族館もあってうちの娘夫婦がやってたけどよ、まあうまくいくわけ無いわな」
そういいながら住職が立ち上がって、ついてくるようにという仕草をしたので、Aさんは住職について家から出て半壊している本堂へ向かっていった。
本堂の中には線香の煙が充満していて、舌を出せば線香の煙を舐め取ることができそうなほどで思わずゴホゴホと咽たが、住職は一向に気にしていない様子で本堂の明かりをつけ、Aさんに本堂の中を見るよう促した。
本堂の中、本来ご本尊が安置してある場所には何もなかった。
「な?この寺、御本尊も売っぱらっちまってるんだ。まあ、アレ自体が曰くのよくわからんものだったんだけど、それにしたってなあ…代わりに寺の御本尊に雪だるまってわけにもいかんだろう?」
「え?よくわからないけど、寺って仏像なくても大丈夫なもんなんスかね?さっきの話どおりならこの本堂?って建て替えてるんだろ?」
Aさんが素直に疑問を口にすると、住職はニヤッと笑った。
「だから罰当たりなんだよ」
住職いわく、先代…住職の父親は筋金入りのろくでなしで、戦前にも色々と難癖をつけては檀家から金を巻き上げるような男だったが、戦後本堂が半壊したことをいいことにご本尊の仏像を売っぱらって金に変えたのだという。
さらに、寺の裏山にある防空壕を使って新興宗教まがいのことをはじめ、それがいわゆる「いろいろやってた時」ということらしい。
「檀家連中にはご本尊は空襲で壊れたみたいに言ってたみたいだけどな。んで、それで巻き上げた金で本堂を再建したって自慢してやがったよ」
とんでもない生臭坊主の話を聞かされて、うんざりしているAさんに、住職はさらに話した。
「他にも、有名なお寺さんのマネをしたのか、どこの誰が描いたのかもわからんような幽霊画を買ってきて、御開帳すると異変が起きる!とかいって見物料をとったりしてたな。ま、なんか知らんが実際普段箱に閉まってる幽霊画をご開帳したら、しまう頃にはなんでかべったり濡れてて、翌日も干しとかなきゃならなくなったことが結構あったけどな」
それって本物だったんじゃ?といいかけたAさんに住職は答えず続けた。
「いったろ?もともとここの土地は良くねえ土地だよ。別荘のある辺りはもともとこの寺の墓地のあった辺りなんだよ。言ったとおり前の住職はろくでなしだ。墓の性根抜き?やってるわけないよなあ……。それをあんたら買い取ってどうしたいんだい?」
自分がここに来た目的がバレており、それで脅されているのだ、とこの時Aさんは思ったが、そんなAさんに住職は尋ねた。
「あんた、赤ん坊の声聞かなかったか?」
「あのな、この別荘地にゃほとんど人はいねえ。いるのもほとんどが退職済みのジジババばっかりだ。まぁ別荘地ってことになってるから、夏休みで爺の家に遊びに来てる家族連れもいるかも知れねえが……」
そういわれてAさんはさっき聞いた赤ん坊の声を思い出した。
「しばらく前、別荘地ができてしばらくくらいに、犬を連れて遊びに来てた若い家族があったんだが、ある日犬の姿が見えなくて探したら、殺されてたそうだ」
「それからまたしばらくして、別の家族が子供と一緒に遊びに来た時……子供の姿が見えなくなった」
「次はカップルが来た……彼氏がいなくなったんだと」
「何だよ、この土地がおかしいってのかよ。でもよ、そんなこと俺には関係ねえんだよ……。俺はただ土地を売るよう言って回るだけで……」
「アンタよ、俺の家の客間に勝手に上がってたけど、誰に案内された?」
「誰に……って、あんたの娘とかじゃねえのか!?」
「うちにゃ今は娘はいねえよ。あの家には俺しかいねえ」
「えっ!?いや、ちょっと待てよ俺は確かに案内されて……」
そこまでいいかけて、Aさんはあの女性が一言も言葉を発していないことに気づいた。
-いや、でもそれだけじゃあ……。
そう考えているAさんに、住職が告げた。
「この本堂が半壊してるのはな、ダイナマイトでぶっ壊れたからなんだよ。防空壕の奥にあったみたいなんだわ。それをな……水族館の経営難で思いつめちまったんだろうな。旦那とまだ赤ん坊だった孫と一緒にな。」
「たまに来るんだわ、案内されてうちの寺にくるやつが。まああんたの言うように関係ないかもしれんが、案内されてここに来ちまった人間が、本当に関係ない、なんて言えるもんなのかね……。」
「さわらぬ神に祟りなしっていうが……この場合は仏かな?ま、好きにしろよ。」
そういいながら本堂から去っていった住職を尻目に、Aさんは動けずにいた。
しばらくして嵐もおさまり電車や道路が復旧して別荘地から出れるようになったそうだ。
Aさんも帰るために車を停めた場所に別荘地の中を歩いていた。
まだ嵐の跡は色濃く残っており、看板も鉢植えも倒れ、興奮した犬も吠えまわっていた。
そんな中、倒れた朝顔の鉢植えに目をやったAさんの耳に、朝顔から赤ん坊のオギャー、という泣き声が聞こえてきた。
夏の暑さが戻ってきていたが、Aさんは背中に冷たい汗が流れるのを感じたそうだ。
使用ワード
・水族館
・きれいなお姉さん
・パピコが割れる
・クラゲを煮る
・綿アメを刺す
・寺の裏の防空壕(祟
・内田裕也みたいな和尚
・雪だるま ご本尊は売った(祟
・寺に雪だるま置いてあるから
・線香の煙を舐める
・幽霊画をご開帳すると異変が起こる
・幽霊画が濡れる
・別荘(地)
・犬
・悪天候で別荘地が陸の孤島に
・朝顔をひっくり返す
・赤ん坊の泣き声が聞こえる
・実は別荘地が忌み地だった
・別荘で犬殺し
・朝顔が赤ん坊の声で泣く
・寺爆発
・ダイナマイト自殺があった
・迷子のチンピラ(語り部役)
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